【勉強会報告】新しい地域支援のアイデアを考える!!
9月20日にリハレポ・JOCVリハビリテーションネットワーク共催による、新しい地域支援のアイデアを考える~タイの高齢者医療・福祉の試みから学ぶ~という勉強会を開催しました。
本編を開始する前に、協力隊志望の若手療法士対象に、ランチ座談会も開催しました。
本編には60名を超える方にご参加頂きました。参加者は療法士関係者のみならず、医師、看護師、MR、JICA専門家、コンサルタントの方々など様々な職種の方が集まりました。
それでは講演の振り返りに移ります。
エピソード1 JICAボランティア
まず最初の講演はJICAボランティアでタイに派遣されていた理学療法士の伊藤さん、小林さん、川副さんの3名の活動報告です。
今回は、タイの地域支援から学ぶということなので、タイ国内で行われている地域支援の事例紹介を中心に講演して頂きました。
事例の数、何と24事例です。時間がもっとあったら一つずつゆっくりお話をお聞きしたいとこでした。参加者の方は是非当日配布された資料に、改めて目を通してみてください。また新たな発見があると思います。
各事例は以下の分類でまとめられました。
1.対象地域 ⇒ 場所は?
2.地域課題 ⇒ そこの問題点は?
3.対象者 ⇒ 誰に対して?
4.実践者 ⇒ 誰が?
5.関係者 ⇒ 誰と?
6.社会資源 ⇒ 何を使って?
7.支援内容 ⇒ 何をした?
8.変化 ⇒ どのように変わった?
この分類の仕方は大変参考になります。コミュニティのアセスメントに、非常に分かりやすい項目となっています。是非使ってみてください。
参考までにどのような事例があったのか、タイトルだけご紹介させて頂きます。
伊藤さん
1.学生の地域理学療法学の実習
2.教員による地域住民健康啓発活動
3.地域における学生の臨床実習
4.保健所による地域医療
5.PTによる訪問リハビリテーション
6.コンケン市のHome Hug Home Visit
7.コンケン市のボランティア研修
8.「足るを知る経済」の促進
9.脊髄損傷者当事者グループの活動
10.エイズ患者、主婦への支援
11.ハンセン病後遺症者への支援
12.私立高齢者入所施設への支援
川副さん
1.家屋改修の事業
2.地域の被災労働者への訪問リハビリテーション
3.タイの地域格差とリハビリテーション
4.タイの医療ツーリズム
5.タイ国立シリントンリハビリテーションセンター
6.地域の障害児に対するシーティングセミナー
7.エイズ寺とAIDS/HIV支援
小林さん
1.地域に住む要援護高齢者宅への訪問
2.低所得者、及び高齢者への寄付活動
3.高齢者社会福祉開発センターでのタンブン
4.高齢者社会福祉開発センター入所高齢者のセンター外の活動
5.センター近隣に住む住民のヨガ教室
これをみるだけでも、タイ、日本を問わず地域で出来ることはたくさんあるということを実感できます。地域と関わる切り口は様々であることが分かりますね。
また、職域を超えた関わりも見られます。
興味深い事例はあったでしょうか?皆様の新しいアイデアのきっかけになれば幸いです。
エピソード2 多世代共生型コミュニティ
森ノ宮医療大学で助教をされている渡辺長さんには、多世代共生型コミュティについてお話をして頂きました。渡辺さんはアメリカやネパールで研修や協力隊としての活動を経験された後に、タイのマヒドン大学の公衆衛生修士に進学され、現在は教鞭と大阪大学での研究をされています。
地域レベルの視点
渡辺さんはネパールの病院で活動していたときに、地域レベルで問題解決をしていくことの重要性を痛感したそうです。
ひっきりなしにやってくる患者。医療資源のない現場。自転車操業のような毎日に、1人の患者だけを対応していてもその場所は変わっていかない…この現実を何とかしたい。そう語っていました。
そしてタイでのフィールドワークなども重ねた結果、行き着いたのが多世代共生型コミュニティというものだったそうです。
日本の介護保険サービスに小規模多機能施設というものがありますが、これを更に子供から障がい者、高齢者と共生できるもにできないか?ということを検討しているそうです。ちょうどタイムリーなことに、数日前に日経新聞で一体型施設について掲載されていました。
そのキーポイントとなるのがサービス提供者になってくるのですが、フィンランドのある資格が注目されています。
ラヒホイタヤ
それは、ラヒホイタヤという資格です。これは保育士や准看護師等の資格がオールインワンになっているものです。日本でも導入が検討されましたが、現状では見送りになっています。
ただ、フィンランドでは少子高齢化に対応するためにこのような資格が作られているのです。日本の療法士も多機能な能力が求められてくるかもしれません。
自助・互助の仕組み
小規模多機能施設の共生の話に戻しますが、これは実際に東北の被災地や高知県などでもモデルケースとして実施されているようです。渡辺さんは高知県四万十市の取り組みを例に挙げられていました。
この共生を実現していくために重要となるのが、自助・互助の取り組みになってるということも説明されていました。
タイなどの東南アジアへの輸出
渡辺さんが所属する研究グループでは、この地域共生のモデルを東南アジアへ輸出できないか?ということを検討しています。東南アジアはタイを筆頭に高齢化が著しく進んでおります。そのスピードは日本をも上まります。
日本の地域共生と言う試みが、東南アジアの国々でも活かされる可能性が示唆されたところで講演が終了しました。
参考
エピソード3 要援護高齢者等のための介護サービス開発プロジェクト(LTOP)報告
最後に、厚生労働省からJICA専門家としてタイへ出向されていた榎本さんに講演して頂きました(*現在は厚生労働省に戻られています)。
現在タイでは、日本政府の援助により、新しい介護サービスの取り組みの開発がされています。プロジェクトについては以前も書きましたので、こちら(高齢化が進むタイに日本の介護サービスを!)をご参照ください。
榎本さんはプロジェクトチーフとしてご活躍されましたが、現場レベルの情報を非常に大事にされていました。エピソード1にもありましたが、JICAボランティアから得る情報も大変有益だったと言われ、この言葉は現場レベルで活動する人にとっては非常に励みになりました。
プロジェクトについては現在も進行形であり、終了はしていないのですが、お話を伺っていて一定の成果があることが分かりました。
このような大きなプロジェクトになってくると財源の問題などが非常に大きくなってくるようです。どこからこの介護サービスの費用を捻出するのか?ということが今後の焦点になりそうです。また、公的なものだけではなく、やはり自助・互助のような関わりも重要になるのでは?と述べられていました。
日本の介護サービスのシステムはタイでも非常に有益なものであるということも分かりました。ただ、そのまま輸出するのではなく、タイの文化的背景などを考慮することが非常に大事になってきます。
まとめ
いかがでしたか?今回、新しい地域支援を考えるということでこの勉強会を開催しましたが、タイ独自の地域支援の取り組みや、タイに日本の仕組みを導入されたことで、改めて気付かされたことも多かったです。
勉強会を終えて、今後のリハレポのアクションとしては、タイに限らず、海外(開発途上国中心)の地域支援の試みを積み上げていきたいなと思いました。
またまとまりましたら次の企画や勉強会を考えますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ご協力頂きました講師の方々や、JOCVリハビリテーションネットワークのボランティアスタッフの皆様にはこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。
開発途上国リハビリレポーター代表 小泉 裕一