リハレポ183号 現地の方にかけられたあの一言 キルギス野口OT

Кандайсыз?(カンダイスゥズ?)お元気ですか?キルギスから作業療法士の野口がお届けします。

セラピスト7年目にして、初めてのことです。

“大人は子どもに対して、越えるべき壁として存在しなければならない。”

そう感じた私は、汗びっしょりになって治療していました。

それは、脳性麻痺と診断された、5ヶ月の男の子との最後の治療の日(10日目)のことでした。その男の子は、いつも通り母親と一緒にリハビリ室に来ました。

母親はリハビリ室に来て早々「Чыңгыз!(チュングズ:キルギスで呼ばれている私の名前)ヒマ?」「今日、最後だからいっぱい遊んであげて!」と、子どもがビックリするぐらい大きな声を出していました。もともと、とても元気な母親だったので、特に気にせず流していました。しかし、その後もニコニコしており、何か言いたそうな雰囲気をずっと出していたため「何?」と、尋ねると…

「この子の仕事のことを考えたの。この子は、あなたと同じ作業療法士にならせるわ。そして、キルギスの子どもたちのために治療をやってもらうの。」

その瞬間、私の体が一気に熱くなり、-20°の真冬であるにもかかわらず、汗びっしょりになってしまいました。その男の子に、ポタポタと私の汗が垂れ、申し訳ない気持ちの反面、どこか嬉しさが混じり、何とも表現しにくい感覚でした。

一通り、汗を出し切った後で、母親に「なぜ?作業療法士なの?」と尋ねると…

 

「給料、いいんでしょ?」

 

この後の会話は、あまり覚えてないので控えます。

 

その後、私は冷静さを取り戻し、淡々と寝返りの練習、中心線で両手を使って遊ぶ練習、座る練習を行いました。そして、いつも通り子どもの頭を撫でて終了しようと思った瞬間、母親が携帯電話を取り出し、何かを調べながら「ちょっと待って!」と、言うのです。そして、母親が「この子から素敵なプレゼントがあるの。でも、この子まだ喋れないから、私が言うね。」

 

「ありがとう(日本語で)」

 

母親はGoogle翻訳を使って、日本語の“ありがとう”という単語を調べていたのです。私は、子どもの頭をいつもの2倍~3倍、多く撫でて、ほっぺにチューして、見送りました。

 

“大人というものは、どんなに辛いことがあっても、めげずに頑張り、どんなに嬉しいことがあっても、冷静さを保ち振る舞う。”子どもは、この壁を越えて成長していくのだと思います。

 

ショックのあまり治療を淡々としてしまった私…

嬉しさのあまりほっぺにチューしてしまった私…

 

大人としての壁は“まだまだ”のようです。

 

それでは今日はこの辺りで。Саламатта калыңыз!(サラマッターカルングズ!)さよなら!

7-13①キルギス野口さん 7-13②キルギス野口さん

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