スリランカの田舎で理学療法士が地域支援!CBRって何?

あらすじ:任地のマータラ県ムラティヤナに赴任して4カ月。地域に根ざしたリハビリテーション(Community Based Rehabilitation: CBR)の中でリハビリテーションの観点からの支援を行うために赴任しました。現在の活動と任地のCBRについてお伝えします。

活動先はどんなところ?

任地であるマータラ県は、スリランカの南部に位置しています。

そして、配属先のあるムラティヤナは、マータラ市街から北へバスで1時間程行った山間部に位置しています。管轄地域の広さは10キロ平方メートル程で、ムラティヤナの人口は約55000人です。おもな産業は第一次産業(紅茶、シナモン、ゴム)などです。自然が豊かな地域で、「田舎」という感じの地域です。

私の配属先であるムラティヤナ郡事務所は、日本で言えば「役場」にあたります。そこで、主にカウンターパートである社会開発担当官、社会福祉担当官と共に活動しています。カウンターパートらはソーシャルワーカーであるため、医療やリハビリテーション、理学療法に関する知識は多くありません。彼らの普段の業務は、村にいる障がい者の把握、サービスの紹介・相談、障害給付金の支給等を行っています。

今回の要請内容は、スリランカで行われているCBRの中で、リハビリテーションの観点から地域を支援することです。管轄地域の村々を巡回し、身体障がい者やその家族、ローカルボランティアに、必要なトレーニング伝達したり、自主トレとして提供したりして、日常生活能力の向上、さらには仕事や家事を再開することです。要請の背景として、村から理学療法等を受けることができる病院に行くのに、車で少なくとも1時間程かかるため、障がい者の多くが定期的に病院に通うことが困難であるということがあります。

ムラティヤナ郡事務所

ムラティヤナ郡事務所

巡回の村道

巡回の道中

障がい者の自宅への巡回活動

週に3回程、郡事務所の管轄地域にある村々の障がい児・障がい者の自宅に、バスや徒歩、スリーウィール(トゥクトゥク)で訪問します。

主な疾患は、小児では脳性麻痺、ダウン症候群、成人では脊髄損傷、頭部外傷、脳卒中、ポリオ、変形性膝関節症、四肢変形等です。はっきりとした診断名がない方も多くいます。スリランカでは、障害が重度でも、家族の介護のもと自宅で生活しています。特に田舎では、今でも家族の結びつきがとても強く、家族や近所に住む人々が協力し合って、重度の障がい者や高齢者の介護をし、生活を支えています。

巡回時に伝えることは、身の回りのことができるようになるための機能訓練や自主トレの提供、介助方法のアドバイス、家屋環境の調整です。日本のような福祉用具は多くなく、村では手に入りにくいため、必要なものは手作りしていることも多いです。

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カウンターパートと歩行練習をする脳性麻痺児

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手作りの脳性麻痺児用椅子

障がい者の生活とCBRの現状

先にも書いたように、障害が重度でも障がい者は家族の介護のもと、自宅で生活しています。その多くで、身の回りのことに介助が必要な障がい者の場合、障がい者のみならず、その家族もの仕事をすることが制限されています。

国から支給される障害給付金は月に3000ルピー(4500円)。スリランカの公務員の月給が35000ルピー前後であることを考えると、生活を営む上で決して十分な金額ではありません。

さらに、その給付金は障がい者全員に給付されるわけでなく、郡事務所ごとに人数に限りがあります。そのため、障がい者やその家族どのように収入を得るかということはとても重要です。

本来のCBRでは、リハビリテーションだけでなく、教育、生計、社会、エンパワメントと多岐にわたる連携した支援が必要です。私の活動する地域では、未だ横のつながりが薄く、CBRの活動としては不十分な印象があり、今後の課題です。

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CBRマトリックス

地域の人々との活動

活動は、障がい者の自宅への巡回以外に、前任ボランティアの活動を引き継いで、保健師による妊婦指導プログラムや、地域の子供たちのプログラムに参加しています。

妊婦指導プログラムでは、妊婦体操の他、基本的な生活習慣や運動の重要性を伝え、子供たちのプログラムでは、体を動かしながら行うゲーム、日本語教室、折り紙を行っています。

このように様々な年代の様々な人々に出逢えることは、CBRの推進にとても有益であり、病院や施設への配属ではなく、地域への配属の醍醐味であると考えます。

子供たちの集まり

子供たちの集まり

執筆者:福井麻耶氏 理学療法士

青年海外協力隊の平成28年度1次隊としてスリランカのCBR支援のためにマータラ県ムラティヤナ郡事務所に配属。国内では回復期リハビリテーション病棟、老人保健施設で勤務。

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