途上国のリハビジネスで注意すべき3つのこと

最近、これからは療法士も海外展開をした方が良いという話をよく耳にする事があります。

私は青年海外協力隊員(ボランティア)としてモンゴルに2年間派遣されて、現地の病院の様子や、また障がい者や生活困窮者の生活などを見てきました。また地域間格差などの現状も目の当たりにしてきました。

厳しい環境の生活

厳しい環境の生活 このすぐ横はゴミの梅たちとなっている

 

私も2年間ボランティアとして活動を続けてきてその限界や、また持続可能な仕組みを作るためにはビジネスの視点がないと難しいということを非常に感じてきました。

しかし一方で、途上国でビジネスを行う上で注意しなければいけない点も多くあるように思います。私は実際に途上国でビジネスを展開しているわけではないので、あくまで途上国の病院で働いたり、地域活動をした経験から、途上国リハビジネスの注意点を考えていきたいと思います。

1 格差を広げてしまう可能性があること

途上国でリハビジネスを考えるときにまず考えることは、目的や対象をどうするか?ということが挙げられます。当然、ビジネスでありボランティアではないため、ある程度の収益をあげる必要があるのは当然のことかと思います。

しかし、もしここで、日本ベースで収益を考えてしまうと、当然そのリハの単価は現地の基準と比べて高くなることが考えられます。

単価を高くするため、おのずとそのサービス対象は裕福層を対象としたものになります。

ではこれは良い事なのか?どうなのか?と言われると、正直よく分かりません。

ただ、注意しないと、途上国をビジネスで変えていくと意気込んでも、逆にそのビジネスは格差をより広げてしまうきっかけにもなってしまうという事です。

昔、開発経済学ではトリクルダウンという考え方が一般的でした。これはどういうものかと言うと、富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちるという考え方です。

しかし、これはその理論通りにはいきませんでした。むしろ格差を広げしてしまった事例もあります。

裕福層に偏ったサービスと言うのは、格差を広げてしまう可能性があります。もちろんこれは必ずしも悪い事ではありませんし否定しているわけでもありません。

重要なことは途上国リハビジネスをする上で、格差を広げしてしまう可能性を考えているのか?またそのビジネスに、開発学と言う視点が組み込まれているか?と言う点が大事になります。

途上国はまだリハサービスがないから、市場がたくさんあるから、そういった視点だけではなく、開発、援助といった視点が含めることで、誰にでも歓迎されるビジネスにしていく事が望ましいでしょう。

2 仕事を奪う可能性があること

リハサービスがなかったとしても、現地で伝統医療といった類で仕事をしているケースがたくさんあります。国によりケースバイケースですが、もしかしたら現地の類似職種者の仕事を奪ってしまう可能性があるということです。

もちろん市場経済において、競争は生じて当然のことですが、度が過ぎると大変なことになってしまいます。

必ず、その国や地域の医療従事者や類似職者の動態、また経済状況なども考えなくてはなりません。

できれば、既に現地で活躍している人材と手を組むことが最も効率的で、影響が少ないように思います。

全て外から新しい進んでいる日本の仕組みを入れる、という考えではなく、ある資源、人材を活かすという点が大事になります。

そのためにはおのずと、現地をよく知る人物と組むという事が欠かせなくなってきます。

3 新しい価値観を作ってしまう可能性があること

最も考えなくてはならないのが、新しい価値観を作ってしまう可能性がある、ということです。途上国の人々は先進国の試みを取り入れることをとても歓迎します。

日本人の医療従事者に診てもらいたい、治療してもらいたい、誰でもそう思います。

片麻痺の方と著者

片麻痺の方と著者

途上国の一般的な医療と言うのは、日本のものと比べると技術もサービスも劣る部分が多いです。

現地の医療従事者にはまともに診てもらえない、信用できないなどという声も聞かれることがあります。

そういった中で、新しい価値観を作るという事は、新たな可能性であったり、希望を生むという事にも繋がります。

しかし、新しい価値観が作られたとしても、絶対にアクセスができない人がいたらどうでしょうか?

最近は情報化の発展により、情報の格差が少なくなってきました。ある程度の方は世界でどのようなことが行われているか?どういった治療があるのか?といったことを国を超えて知れる時代になっています。

貧しい国の人々にとってはそれが夢物語のように語られます。

しかしその夢物語がいざ自分の国に訪れたとしたら、、、

今までは自分の国にはそれができないからと諦めていたけども、もう少しの所で手が届きそう…でも経済的な理由で絶対に届かない、、、

物理的には届くのに、、、もう少しなのに、、、

そんな世界が広がるかもしれません。

物理的な距離というものは大変重要なものです。それは良い意味で、最も現実的な落としどころなのです。

こういった過程は、発展の過程ではしょうがないと言う人もいるかもしれませんが、少なくともそれは現地の人々が考える事であって、外部者の人間が決められることではありません。

また、それを選択するのは現地の人間であって、我々ではありません。

本当にその新しい価値観はその国にとって、またその地域にとって必要なものなのか?ということを十分に話し合う必要があります。

まとめ

いかがでしか?最近、海外進出をしたいという声をよく耳にするので、現地でリハに携わった経験、また30ヵ国以上のJICAボランティアの声をもとに書いてみました。

この記事は、あくまで個人的な考えですので、自分なりに解釈して頂ければと思います。

私が感銘を受けた本で、アマルティア・センの貧困の克服と言う本があります。アマルティア・センはインドの経済学者でアジアで初めてノーベル経済学賞を獲得した経済学者です(経済学と哲学の手法を結合)。

この本では貧困の考え方や、潜在能力の重要性について書かれています。

アマルティア・センは、貧困の克服について、経済的は改善だけではなく、教育や健康が確保される必要があると言っています。

そして生活の良さを、

“本人が採り得る生き方の可能性の幅がどれ位広いか?”

”ある人が価値あると考える生活を選ぶ真の自由がどれだけあるか?”

と考えており、

そのような可能性の幅・自由度を

ケーパビリティ(Capability/潜在能力)

と提唱しています。

ケーパビリティアプローチから、発展した人間開発指数(Human Development Index )という考え方は、開発学の分野でなくてはならない指標となりました。

しかし、よく考えて頂ければ分かると思うのですが、このような考え方はリハビリテーションの概念と近いものがありませんか?

ようするに途上国リハビビジネスにおいても、ビジネスそのものに“リハビリテーション”の意味を持たせることで、そのビジネスが現地の人に受け入れられ、環境に適したものとなり、開発学の視点でも有益なものになる可能性があるのかもしれません。

執筆者:小泉 裕一 理学療法士

リハレポ運営代表。青年海外協力隊員として2012年6月~2014年6月までモンゴルに派遣されていた。帰国後は講演会や国際リハ関係の様々な企画を手掛けている。

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