第50回日本理学療法学術学会に参加して!国際協力のシンポジウムを振り返る
6月5日~7日にかけて東京国際フォーラムで理学療法学会が開催れました。今回は50回を記念して、様々なシンポジウムが行われましたが、その中の1つに【理学療法の国際協力】というセッションが設けられました。セッションでは国際協力機構(JICA)の関係者が中心となりシンポジウムが行われました。ここではシンポジウムの内容をまとめていきます。
1 戸田 隆夫氏 国際協力機構 人間開発部
世界の社会保障に関する状況や、JICAのこれまで、またこれからの援助について中心に話されました。印象的だったのは、世界人口81.7%が途上国に住み、1日1.25$未満で生活する人々は14.5%ということでした。改めて数字にしてみると、非常に多いということが分かります。
JICAの途上国への援助額は世界でも1、2位を争っていましたが、現在は5位となっています。実はこれは少なくなっている訳ではなく、今まで円借款していた分が返済されている関係で総額としては下がっているということでした。実質は今も世界1、2位を争う援助量で、ODAの統計の関係上とのことです。
その中の一つのボランティア事業については、草の根の小さな事業はすごい成果を生む可能性があり、情報インフラが発達し世界の情報にアクセスがしやすくなった今、良い試みはすぐに世界に広まると言われておりました。そのためには、見える化と拡大再生産の2つのキーワードが重要になるようです。また最後に、援助は途上国のためでなく日本のためということを力強く言われていました。途上国から学ぶことが非常に多く、それは多様性をもたらすということでした。
2 会澤 栄美氏 国際協力機構 人間開発部 社会保障チーム
リハビリテーションに関わるJICAのプロジェクトについて話されました。特に印象的だった3つのプロジェクトについてご紹介します。
① ミャンマーのリハビリテーション強化プロジェクト
2008年7月からミャンマーのリハビリテーションが質的な面で向上するように国立リハビリテーション病院を拠点に行われています。こちらのプロジェクトの目的は以下の3つになります。
1 リハビリテーションに関わる医療専門職の技術向上 2 リハビリテーションサービスの質の向上 3 国立リハビリテーションと地域の各施設の連携向上を目指す |
このプロジェクトはJICA専門家の大澤理学療法士を中心に進みました。成果としては、
1 現地の人材が専門的な研修を行えるようになったこと 2 他職種と情報共有システムの構築ならびにサービス利用者向けの教材を作成できたこと 3 退院後の地域資源へのリファーラルシステム(紹介システム)を構築できたこと |
が挙げられていました。現在もシニアボランティアが定期的に派遣されています。
ミャンマープロジェクトの詳細
http://www.jica.go.jp/project/myanmar/001/outline/index.html
② コスタリカの人間の安全保障を重視した地域住民参加の総合リハビリテーション強化
2007年からコスタリカのブルンカ地域で実施されました。地域レベルでのサービスの脆弱性により首都圏にあるリハビリテーション提供機関も飽和状態になり、解決するには地方都市を拠点として地域の住民参加を伴ったサービスの行き届くシステムを確立するために行われました。目的は以下の2つでした。
1 ブルンカ地域の障害者の(ICFによる)生活機能の向上 2 ブルンカ地方における当プロジェクトの活動と成果が国内の他地域へ普及 |
このプロジェクトも理学療法士の方が関わり進みました。成果としては、
1 組織間及びセクター間の調整と情報共有機能の強化 2 医療リハビリテーションサービスの強化 3 障害者の就労に向けた選択肢の増加 4 CBR戦略の促進 5 障害者のエンパワーメント |
とされています。このプロジェクトで重要だったことは当事者が主体となるということでした。当事者を中心とした地域開発は、あらゆる社会的弱者のハンディも網羅するということで、当事者が参加するということが非常に重要であると言われていました。現在、JICAが行う障がい者分野の開発支援にはツイントラックアプローチと言う手法がとられています。
ツイントラックアプローチはもともとはジェンダーの分野で使われているものでしたが、理学療法士の久野研二氏が障がい者分野にも体系化されました。
“ツイン・トラック・アプローチとは、開発の取り組み全体に障害の視点を反映することによって開発における障害(者)のメインストリーミング・インクルージョンを行うことと、障害当事者のエンパワメントを行うことの2つの取り組みを並行して行うアプローチ・枠組みである”とされています。
*以下ツイントラックアプローチのURLより引用
簡単に言うと、障がい者を取り巻く環境づくりと、障がい者自身の自尊心や自立を高めることを並行して進めるアプローチということです。
コスタリカプロジェクトの詳細
http://www.jica.go.jp/project/costarica/0602942/01/index.html
ツイントラックアプローチはこちら
http://jica-ri.jica.go.jp/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jica/kyakuin/pdf/200306_02.pdf
③ コロンビアのプロジェクト
こちらのプロジェクトは、障害のある紛争被害者をはじめとする、対象地域に住むすべての障害者の社会復帰・社会参加を促進するための活動を、障害者自身や家族、行政官、自治体職員、医療従事者等、コミュニティの多様な人たちと協力して実施されます。
プロジェクトのリーダーは障害当事者の奥平真砂子氏で、山田理学療法士も技術協力専門家として派遣されています。
コロンビアプロジェクト詳細
http://www.jica.go.jp/project/colombia/002/news/20150519.html
3 渡邉 雅行氏 国際協力機構 青年海外協力隊事務局
渡邉先生は作業療法士、理学療法士のダブルライセンスを取得され、海外活動を長年に渡り行っている先生です。現在はJICAボランティアのリハビリテーション部門の技術顧問をされています。
これまでの理学療法士の派遣者数414名、現在の派遣者数64名、およそ500名という数字に驚きました。これだけ多くの理学療法士が海外に派遣されているのか…ということを考えると力を合わせれば何かできそうな気がしてしまいます。
④ 池城 正浩氏 翔南病院 リハビリテーション科
池城先生は沖縄県理学療法士協会の会長です。指定発言と言う枠で発表されていましたが、沖縄県士会ではこれまでフィジーの理学療法士に対して支援を行ってきました。沖縄出身の理学療法士が協力隊としてフィジーへ派遣されたのがきっかけで、JICAの草の根事業などを通じして県士会として支援を行っていたようです。日本へ研修を受け入れて、協力隊を通して現地で指導するという取り組みはとても素晴らしいものでした。
沖縄県士会のフィジーの理学療法士支援プロジェクト
http://www.jica.go.jp/partner/kusanone/chiiki/fij_02.html
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004583020
シンポジウムはだいたいこのような内容でした。そして夜には途上国で活動経験のある療法士や、これから行ってみたいとという方を交えて懇親会を行いました。
そして懇親会の中ででたのは、協力隊経験を形にして見える化していこう!ということで、またこれから新たな活動を模索していきたいと思います。
リハレポでは、これから協会や各教育機関、医療機関などリハビリテーション分野で国際協力をしていく団体へ、協力隊の経験が参考になるように経験を体型化ていきたいと思います。
また、途上国の素晴らしい試みを日本へ輸入できるように、様々な事例を体系化していく予定です。