協力隊療法士のキャリアパスと修士をとるメリット!
1.日本の理学療法士/作業療法士とその学生がおかれている現状
現在、理学療法士と作業療法士は合わせて年間約二万人が国家試験に合格し、協会が把握している人数だけで理学療法士は十万人にのぼります。
そして、その多くが日本の医療・福祉現場に身を置く流れをとっています。
超高齢化社会に突入している日本にとって専門的知識をもった医療従事者が増加する事は一見喜ばしいように思われます。
しかしながら、当事者の療法士達にとって近年の過剰なまでの養成校と人数の増加という状況は、医療機関の現場では「実習生や新人指導の限界」「治療技術の質低下」等が問題視されると同時に、学生達からは希望する医療機関に就職が出来ないという「就職難」という問題が深刻化しています。
私が出会った20代〜30代の若手療法士や学生達は、この問題を深刻に捉え、国家資格取得後に「◯◯が出来る」「△△の経験がある」などの付加価値として、どのような「キャリア」を積むかという視点をそれぞれ強く意識している事を知りました。
ここでの「キャリア」とは収入が増えるなどのメリットには直結するものではなく、これからの療法士が療法士として社会で活躍する為の独自性を意味しています。
http://50th.japanpt.or.jp/trend/より参照
2.キャリア形成
理学療法士が「キャリア」を積む為にはどのような方法があるのでしょうか。
現在、国内で一番重視されるのは
「どのような医療機関で、どのような患者さんを担当してきたのか」
「どの学校で、どのような研究をしているか」
「どんな講習会/勉強会に参加した経験があるか」
であり、その為多くの療法士は大学病院や医療センター等の大病院あるいは有名校の研究機関での経験を積みたいと考えます。
一方、国際的な分野で重視される割合が極めて高いのが「学歴」です。
専門学校卒か、大学卒か、大学院を出ているのかどうかという事を初対面の外国人療法士から質問される事は少なくありません。
つまり、海外の療法士業界では国家資格に付随して、どんな分野を研究して自分だけの独自性をいかに身につけているかという事が最も重要であり、どれだけ独自性をもった「キャリア」を個人レベルで積んでいくかという意識が根強いです。
加えて、帰国後の療法士がこれからも国際分野に進みたいと考え、国内の行政法人やコンサルタント会社、NGO/NPO、財団などに所属したいと考えた場合、応募の際に審査される基準もまた、修士または博士号をもっているかという前提条件があるケースがほとんどで、学歴は必要不可欠です。
つまり、海外は学歴至上主義なのです。
3.青年海外協力隊での経験
私は青年海外協力隊員(ボランティア)としてタンザニアに約2年間、現地の病院に派遣されてきました。
帰国した現在、海外での経験は収入増加となるようなキャリアとしては全く加味されておりません。
経験談の講演依頼をしばしば受けるようになった、他業種の方と交流が持てる機会が増えたという点において、国際思考という独自性が付加価値として、やっとのことで得られるようになり始めた程度です。
しかしながら、講演に呼ばれるからといって海外の医療現場で培った経験や調査結果を、学術的に有用な形に残し、論文にして広く世間に打ち出す事が出来てはいる訳ではなく、これから国際医療の現場に進もうとしても学歴には反映されません。
このボランティアでの経験は、学術論文に出来ないのでしょうか。私は、現地に入り込んだ活動を行うボランティアであったからこそ経験し、考えられた事がたくさんあります。
ですが、当時の私はそれらの経験を学術的にまとめ、分析し、表現する方法を充分に知りませんでした。
では果たして、現地での活動と学術論文の作成を同時に進める事は不可能な事なのでしょうか。
4.「JICAプログラム」という修士課程
新潟医療福祉大学大学院には、通称「JICAプログラム」という修士課程があります。
『この「JICAプログラム」は大学院のホームページに詳細がありますので、URLを記載しておきます。
-国際協力機構・新潟医療福祉大学大学院連携青年海外協力隊等プログラム-
(http://www.nuhw.ac.jp/grad/jica/)
このプログラムは2012年に設立された、新しいプログラムです。特色として、修士課程に在籍しながら青年海外協力隊等の隊員として派遣国で活動することができるという日本初のプログラムです。
原則2年間の修士課程のうち1年間を任国でのフィールド実習、残りの期間を日本の大学院で講義の受講、そしてフィールド実習で収集したデータなどを用いて課題研究論文の作成に充てるという流れになります。
国際保健協力に関わる人材としての資質・能力を高めることを目的とし、講義は修士課程の共通科目だけでなく、開発途上国の保健課題に対する対策の計画・実施についての実践的な演習などの講義も含まれます。』
私がこのプログラムの存在を知ったのは、タンザニアに派遣されてからでした。このプログラムを知った時、自分の心が凄く踊った事を覚えています。
しかし、派遣国がアフリカ大陸ということもあり、私には派遣中に入試を受けに一時帰国する費用も、時間もありませんでした。
もし、このプログラムの存在を青年海外協力隊として派遣される以前から知っていれば、私は迷わず受験していたと思います。
自分の現地での経験を有効なデータ収集に直結させ分析し、そして帰国後に論文作成に時間を費やせば、より現地の現状を踏まえた内容を文章化し、多くの貢献を派遣国に還元することが出来たのではないかと考えます。
私は結局、帰国後も諸般の事情でこの大学院を受験することはなかった為、このプログラムの具体的な利点はお伝え出来ません。
しかしながら、このように現地での活動と現地への還元に付加価値をつける事が出来、さらには帰国後も国際分野に携わりたい場合は学歴まで積む事が出来るプログラム自体は存在するのです。
このプログラムを利用し、国際分野において現場と学術面の両面で貢献する療法士がさらに増える事は、この国際事業に関わる全ての人、国にとって、大変有効なのではないかと考えます。
4.結論
これから青年海外協力隊に参加しようと考えている方や、派遣中で今後も国際医療に関わって行きたいと考えている方は、是非ともこの新潟医療福祉大学大学院の通称「JICAプログラム」という修士課程を調べ、受験してみてはいかがでしょうか。
また、途上国の現場で活動する国際志向の療法士の能力を引き出し、応援してくれるこのようなプログラムを設置する大学院が増えてくれる事も同時に願っています。
2月14日のJOCVリハビリテーションネットワーク主催のセミナーで、新潟医療福祉大学のこのプログラムの経験談も聞けます!詳しくは以下のページから!
リハネットセミナー!国際協力をカタチにするために必要なことは?
執筆者:辰巳 昌嵩 理学療法士 青年海外協力隊員として2013年1月~2015年2月までタンザニアに派遣されていた。帰国後は大学での講演会など様々な場所でタンザニアでの経験を伝えている。 |