モンゴル語で学会発表をし活動を“カタチ”にした理学療法士
Сайн байна уу? (サイン バイン ノー)
こんにちは。モンゴルで2年活動し、2016年7月に帰国しました理学療法士の村野です。 今回は2年の活動の振り返りをお伝えしたいと思います。
配属先と日々の業務
私はモンゴルの首都ウランバートルにある国立中央第1病院リハビリテーション科で活動していました。リハビリテーション科にはリハビリテーション医と伝統治療医、看護師(マッサージや物理療法を行う)、理学療法士が勤務しています。私は新規の派遣だったので、まずは手探りからの出発でした。
活動当初は文化・習慣から業務形態や管理体制など日本との違いに驚いたり、何から取り組めばいいのか戸惑いました。 勉強会を計画しても、患者記録を取り入れても継続できなかったり、中途半端で終わってしまうことが多く、自分は何をすべきなのか、何を求められているのか、悩む毎日でした。
まずは私がどんな人間なのか、何を大切にリハビリを行っているのかを知ってもらうために、患者さんと真摯に向き合ってリハビリを行うように心がけました。
病院のリハビリテーションの現状
日々患者さんの治療に携わって1年が過ぎたころ、同僚とリハビリテーションの認知度の低さやチーム医療について話が盛り上がりました。
またJICAの医療職種の隊員で、モンゴルの医療に関わる方々(配属先の同僚、保健省や養成校の先生方など)と会合を行い、それぞれの分野での問題点や方向性を共有しました。そのときも、リハビリテーションの認知度は問題に上がりました。
モンゴルではリハビリテーションというとマッサージや鍼などの伝統治療のイメージが主流であり、理学療法士は2011年に養成校1期生が卒業した新しい専門職です。現場でも、患者さんが理学療法をマッサージと言っていたり、腰が痛い、首が痛いと歩いてこられる患者さんのリハビリで午前中の業務時間が終わってしまって脳卒中や術後の患者さんにかける時間が少なくなっていたり、病室にリハビリをしに行ったら、いつの間にか患者さんが退院していたりと、なんとなくリハビリの理解不足、情報交換不足は感じていました。
そこで、実際はどうなのかということで、同僚と、患者さんの情報をデータにまとめてみました。その結果、神経科、関節外科、内科などほとんどの科からリハビリテーション処方が出ているのにもかかわらず、理学療法を受けている患者さんの大半は腰頸部痛であり、呼吸器や廃用症候群などの内部障害はほとんど処方が出ていないという、現場で感じていたことを実際に数字で示すことができました。
またそれをもとに病院の他科の医師、看護師にリハビリの認知度がどれくらいかアンケートをとってみました。すると、リハビリがどのようなことを行うかに関しては、マッサージや伝統治療だけでなく、機能訓練、歩行訓練やADL訓練も認識されてきていましたが、対象疾患は脳卒中や整形疾患が主で、内部障害に関しては認識が薄いという結果となりました。またリハビリに関わる職種としては理学療法士を始めリハビリテーション科で勤務している職員という認識が強い傾向があるようでした。
同僚がこの調査結果をまとめて病院の研究雑誌に掲載され、現状や課題を同僚たちと共有しました。また病院内の研究発表会で症例報告を行ってリハビリテーションの意義を伝えたり、関節外科(TKA、THAの手術を行う科)で勉強会を行い、チーム医療の重要性や日本の紹介を伝えました。私の帰国後、関節外科とカンファレンスが開催されたという嬉しい話も聞くことができました。
また地方ではさらにリハビリテーション、理学療法士の認知度は低いようです。そこで医療職種の隊員が集まって、地方の隊員の配属先でもリハビリテーションセミナーを行ったりしました。
モンゴルでの研究発表
配属先の病院の研究発表会とモンゴルPT学会で症例報告をさせていただきました。2週間程度しか入院できないモンゴルで、1年間外来で通ってくれたギランバレー症候群の患者さんの経過報告を行いました。
院内研究発表会は医師、看護師などの病院職員、PT学会は文字通りモンゴル人理学療法士に向けて発表します。同じ症例ですが、日々の臨床で感じたことを分かりやすく、明確に伝えられるよう参加者に合わせて、内容を考えました。
院内発表会は、リハビリテーションを長期的に継続しにくいモンゴルにおいて、長期介入がいかに大切か、また理学療法士の一方的な介入ではなく、患者さんのニードに応じてリハビリテーションを進めることをわかりやすく伝え、今後リハビリテーションを効果的に行うことができる環境づくりが必要であると伝えました。
PT学会では、長期的介入ができたことによる患者さんも交えた段階的な目標・治療プログラム設定、家屋評価からADLの工夫などについて伝え、今後法律や環境の整備がされたあと、これらがさらに重要になると伝えました。どちらも動画や写真をたくさん使って、視覚に訴えるように心がけました。
モンゴル語、英語2か国語でのアブストラクト、パワーポイント作成では内容や翻訳をいろんな方に修正していただいて、つたないモンゴル語での発表では時間をオーバーしたのに関わらず一生懸命聞いていただき、質疑応答では質問内容を理解できずに同僚や先生方に助けていただいたりで、本当にいろんな方に助けていただいた発表となりました。発表途中にもかかわらず拍手してくれる方がいたり、表彰していただいたり、発表後にもいろんな方に声をかけていただいたりと、大変うれしかったです。
帰国して思うこと
このように行ったことを並べると、「頑張ったねぇ。すごいねぇ」と言ってくださる方も多くいらっしゃいます。しかし実際、2年前と比べて配属先が何か大きく変わったかというと自信を持って変わったと言うことができません。
毎日の活動の中で、いろんな科に行って、看護師や医師に声をかけられやすくなったかなぁとか、少し興味を持ってくれるようになってきたかなぁとか、そんな小さな変化かもしれません。
リハビリを行う環境が整うまで10年かかったかもしれないけど、こうした活動によって、きっと2,3年早くなったよという同僚の言葉に救われたこともありました。
逆に、私自身はこの2年でかけがえのない出会いをたくさん得ることができました。1人では何もできないと改めて気づかされ、何気ない人の温かさにとても癒されて、人とのつながりの大切さが身に沁みるようになりました。
特に、モンゴル人は家族、親戚、友人の繋がりが深く、その関係性にほっとすることも多かったです。多くの方々と一緒に活動させていただき、これまでの私の価値観では思いもよらなかった意見をたくさん聞くことができ、多くのことを学ぶこともできました。
また今までリハビリを行う環境が整備されている日本では、ただ患者さんの治療に携わっていましたが、これからリハビリテーションが発展していくモンゴルでリハビリテーションに関わり、その先駆けとなる人たちと働いたことで、これまで日本のリハビリテーションの発展に尽力されてきた先生方に感謝するとともに、今後のリハビリテーションのあり方を考えるきっかけになりました。
この2年間モンゴルで充実した協力隊活動を送ることができたのも、現地でお世話になった方々、日本で応援してくれていた方々のおかげです。この場をお借りして、感謝申し上げます。
このつながりは日本に帰国したから終わりというのではなく、これからもずっと続けて行きたいと思っています。そして、今度は今まで得たものを還元できるように、自分の今後の道を歩んで行きたいと思います。
長い文章を読んでくださってありがとうございました。
それではこの辺で Баярлалаа, баяртай(バヤルララー、バヤルタイ)
執筆者:村野万伊加 青年海外協力隊平成26年度1次隊 モンゴル国立第1病院で理学療法士として活動され帰国。 |