ペルーで作業療法士として関わる障害者スポーツ!
ペルーに短期ボランティアで派遣されていた作業療法士田中紗和子さん。長期の作業療法士隊員としてニカラグアから帰国し、早3年、今回、短期ボランティアとして、ペルーで1ヶ月間の障害者スポーツに関する活動をされてきたでご紹介して頂きます。
東京パラリンピックに作業療法士が関わるヒントになるような内容も満載です。
参加したきっかけ
転職のタイミングで空いた時間に、途上国へ行きたいと思っていた時期に、協力隊の短期募集を探してみたところ、理学療法士(PT)と障害児者支援でしたが、本案件を発見しました。
正直なところ、短期といえども1ヶ月の案件なんてあるんだ!と驚きました。私は、障害者スポーツの知識と経験はありませんでしたが、元々体を動かすことは大好きだったので、障害児者支援分野で応募しました。
作業療法士(OT)としての障害に関する知識や協力隊としての経験、スペイン語の日常会話が可能なことから選考されたのだと思います。
また、合格後は、初級障害者スポーツ指導員の資格を取得し、ペルーへ向かいました。
ペルー国立障害者リハビリテーションセンター(INR)
配属先INRは、ペルーの首都リマに位置し、主に貧困層の外来患者を対象にしている保健省管轄のセンターです。
総職員数は580名、リハ医66名、PT65名、OT26名、ST12名、看護師92名に加え、ソーシャルワーカー、心理療法士、事務職などが勤務し、
運動障害部門(脳損傷、脊髄損傷、切断、脊柱変形、痛みなど)、
知的障害部門(適応・知的障害、高次脳機能障害など)の他、
言語聴覚障害、小児発達障害部門などで構成されています。
1日平均外来患者数は、約1,200名で、脊髄損傷患者のみ36床の入院施設が備わっているペルー最大のリハビリテーション施設です。
シニアボランティア(SV)による障害者スポーツの導入と短期ボランティアの協力体制づくり
INRにおける障害者スポーツは、2014年、初代のPTシニアボランティア派遣をきっかけに、本格的に始まりました。
はじめに、中・重度脳損傷患者に対して、ボッチャ、卓球バレー、風船バレー、フライングディスク、グランドゴルフの5種目が導入され、その後、他部門にも事業が展開され、「障害者スポーツ委員会」が立ち上がりました。
さらに、短期ボランティア制度を活用し、鹿児島大学と国際医療福祉大学のPT学科教員2名、学生8名の合計10名が2014年に第1回INR短期ボランティアとして競技指導やスポーツ大会開催協力などの活動を行いました。
翌2015年、再び短期ボランティア協力のもと、新たな競技が導入され、今回第3回目の派遣につながりました。また現在、2代目SVが活動中で、今回の短期ボランティアの活動調整も行ってくださいました。
第3回INR短期ボランティアの活動内容
これまでの活動で、INRにおける障害者スポーツ活動が定着し、競技数も増えていたため、今回は各競技の質の向上を目的として短期ボランティアが募集されました。
今回の参加者は、鹿児島大学PT学科教員1名、鹿児島大学と国際医療福祉大学の学生7名と長期OT協力隊経験者である私の合計9名でした。
派遣期間は2016年8月16日から9月15日までの1ヶ月間で、毎日市内バスでINRへ通いました。
INRでは、リハビリの一環として、医師によって障害者スポーツが処方されています。今回は、障害者スポーツを取り入れている各部門の日常の活動への参加をメインとして、車いすバスケやボッチャに関するリスク管理やテクニックなどの知識や技術伝達や指導者講習会、スポーツイベントへの協力を行った他、INR内での日本文化紹介なども行いました。
リハビリの一環としてのスポーツに対する期待
今回の活動を通して私自身が一番感じたことは「身体を動かすって気持ちがいい~!」ということでした。実際の活動では、普段はずっと車いすで生活しており、活動性も低いけれども、卓球バレーをしているうちに熱中して、思わず立ち上がって身を乗り出す患者さん、歩行が不安定で今にも転びそうなのに、迫ってきたボールから上手に逃げる患者さんなど、入院生活や機能訓練中にはなかなか見られないような驚きの場面にも多く遭遇しました。
言語や文化、生活環境の壁を超えた患者さんや現地のスタッフとの相互の関わりを通じて、短い時間の中でもコミュニケーション能力や社会性、活動意欲の向上など、身体機能面の効果にとどまらないスポーツの力を感じることが出来ました。
スポーツでの負傷をきっかけにリハビリの世界に足を踏み入れたセラピストは多く(私もその一人です)、関心が高い一方で、スポーツ分野での活躍の場は、日本でも非常に限られているのが現状だと思います。
そのような中、INRのようにリハビリの一環としてスポーツが取り入れられているというのは、魅力的で画期的なことではないでしょうか。ぜひ日本でも広がったら嬉しいです。
学生時代の途上国での活動経験
私は、学生時代にタイの山岳少数民族の村でのワークキャンプへ参加したことをきっかけに国際協力に興味を抱き、そこから私の価値観はひっくり返り、現在も途上国での活動に魅了され続けています。今回、一緒に参加した学生の仲間たちが指差し会話帳を片手に一生懸命現地の人々と交流している様子に当時の自分が自然に重なっていました。
自分が出来ること、やるべきことを探し、柔軟に対応すること、どのような状況の中でも前向きに楽しみながらやっていくことは、途上国で活動する醍醐味の一つだと思います。
どのような患者さんでも復職を念頭にリハビリが進められていること、脊髄損傷患者さんの多くが拳銃事故による被害者であることなど、日本とは異なる環境や出来事に圧倒されたり、準備してきたことが十分に発揮できずにもやもやしたり、学生のうちから、こうした経験ができる様々なオプションが今後も広がっていくといいなと思います。
おわりに
自分の長期の協力隊経験も踏まえて、一つの活動がその後も継続していくことは、非常に難しいことだと思います。
しかし、ここINRの活動は、初代SVが障害者スポーツを導入し、それが定着、拡大し、現在も進化しながら継続していることにとても感銘を受けました。
1ヶ月間という非常に限られた時間でしたが、だからこそ、スポーツの力を借りて、同じ目標に向かって国籍も障害のあるなしも関係なく互いに学び合う関係を築き、最後のスポーツイベントは大いに盛り上がりました。
そういう一時、一瞬の感動を得る活動というのもとても意義があると強く感じることができました。
2020年には、東京でパラリンピックも開催されます。今回の経験をきっかけに、障害者スポーツを盛り上げていけるよう私にもできることを探していきたいと思っています。
執筆者:田中紗和子 作業療法士 青年課外協力隊作業療法士隊員としてニカラグアで2年間活動。今回はペルーに1ヶ月の短期ボランティアとして派遣された。 |