リハレポ159号 途上国へ来る前に勉強しておけば良かったことは? キルギス水谷PT

Кутман таныңыз менен!(くっとまんたぬんぐずめねん)おはようございます。

キルギスから理学療法士の水谷がお届けいたします。

首都の国立小児病院(母子総合福祉センター)に配属されて丸1年が経過しました。キルギス国内および近隣国から、妊産婦・新生児〜中学生までが集う、小児医療の中枢機関となっており、さまざまな病気・怪我・診断の子ども達が常に大勢います。

しっかりとした根拠となる数値・データや統計はないのですが、この1年間で感じるところでは、「早産児」「水頭症と診断される早産児または発達遅延児」「股関節脱臼傾向、形成不全」「扁平足」「ちくのう症」「顔面神経麻痺」「若者の腰痛症」が多いように思います。中枢機関として全国から診断・治療を受けに集うという特性を考えると、当然なのかもしれませんが、それにしても多いと感じるのは、出産時または前後のトラブルにより心身の発達の遅れがある、いわゆる脳性麻痺の子ども達です。また、残念ながら早期リハビリの概念はまだないので、骨折後の固定による関節拘縮や、神経系の診断の子どもの変形・拘縮といった二次障害や廃用性の問題も度々みられます。

 

東京では、老若男女さまざまな診断・症状・生活像の方々と関われるように、とリハビリ専門の外来クリニックに勤めていました。もともと協力隊に行く夢・目標があったので、子どもとの関わりがより多く持てる場を希望していたところ、すぐ近くに療育センターがあるこのクリニックと出会う事ができました。リハドクターが兼務されていたこともあり、少しずつ療育センターとの交流を重ね、具体的な症例に関する話し合いをするまでに連携をとることができるようになりました。しかし5年間の勤務で経験できた子どもの患者さんの数はたかが知れています。キルギスへの派遣が決まった時、補完研修は必要ないとの連絡でしたが、個人的にお願いして療育センターで研修を受けさせていただきました。経験豊富な理学療法士の方々に手取り足取り教えていただき、感謝してもしきれません。手作りおもちゃのアイデアや準備すべき資料なども教えていただきました。

 

また、私は運良く同じ配属先で活動されていたOVの方と直接お話しすることができたので、具体的な活動の様子や必要な物品等を教えてもらうことができました。アテトーゼ型の脳性麻痺児が多いこと(日本では多くない)や、限られた10日間という入院期間で母親への指導を行う必要があること、現地マッサージ師が子どもを泣かせている傍で活動することの難しさなど、派遣前からある程度のイメージを持って臨む事ができました。

こういった有り難い出会いと教えを踏まえ、イラストが多い本などの資料(とくに脳性麻痺に関する参考書)と工作・おもちゃ作り用の材料を準備して渡航しました。

 

しかし、何よりも足りていないと感じるのは、自分自身の知識・技術です。そもそもの知識・理解や、子ども達と関わるための引き出しが圧倒的に足りません。参考書やインターネットで調べることもできますが、最新の情報は得られないうえキルギスの現状に見合わないことも多く、日本で当然だったアプローチでは成り立たないのです。そしてベースがないがために、応用が利きません。子ども達の役に立てない自分に、悔しさと腹立たしさ、ましてや哀しさがつのります。

 

例えば、股関節の亜脱臼や形成不全がある場合には、脚を開いて保つための装具を作って着用しますが、その装具が日本の教科書では見た事がないようなものなのです。数ヶ月の固定期間のあと、ようやく理学療法が処方され、マッサージ・関節可動域運動と運動療法を開始するので、股関節や膝関節の過可動性を生じる場合や、不自然な移動法を子どもが身につけてしまうこともあります。

また、心身の障がいのある子どもに対する親・保護者の関わり方は、「なんで何度いってもできないの!?」と厳しく叱りつける場合と、「かわいそうに、しんどいでしょうに」と過保護になり寝かせてばかりの場合と、両極端です。もちろん世界中さまざまな親子がいて、どこに行っても色々なのでしょうが、キルギスは子どもが多く家族の繋がりを大変に重んじるうえ、こういった両極性が目立つように感じます。心理学的な知識や、障がいのある子どもを抱える親への支援について、もっと知っておけば、少しは力になれたのかな、とやはり悔しい想いです。

 

日本には、リハビリテーションに関わる職種が多く存在し、チームとしての働きが推奨されて何年も経ちます。ひとつの職場で、医師をはじめ作業療法士・言語聴覚士・義肢装具師や適宜ソーシャルワーカー等と連携を取り合い、患者さんを支援することが当然になっています。子どもの場合は、療育・治療に携わっている各機関や学校との連携も重要な柱です。そして装具の作成・調整、座位保持装置や車椅子の処方なども、チームとして話し合って行います。意見を出し合い、役割分担がなされ、行政サービスや保険制度を活用しながら進められます。キルギスでは、どうしたらよいのでしょう。

ソ連時代からの名残か、どの分野に関しても仕事が縦割りで、各ポストに割り振られた業務に関して他のひとは触れようともしません。医師は診断と治療の指示、看護師は指示に基づいて検査・施術、マッサージ師はマッサージ、助手は手伝いと片付け、清掃員は掃除と雑務、と、自分の仕事しかしません。お互いに手を取り合って子どもを支える、という概念が伝わらずに悩んでいます。情報を共有し、別の必要な機関に繋ぐ場合には段取りを踏まえて送ることなどの配慮がなされていません。

そのため、必要としているひとに情報が届かず、適切なタイミングで適切な選択をすることができなくなります。せっかく靴型装具やインソールを作成できるワークショップが存在するのに、地方や村からはるばる来た親子には情報が伝わらず、首都の滞在期間中に注文することが難しくなります。機関同士の連携、せめて治療を受けに来る親子への情報提供のシステム作りができないかと、マネジメントに近い能力も必要だと痛感しています。

 

色々と書き連ねてしまいましたが、いま現在もっと勉強しておけばよかった…と感じているのは、装具や自助具に関する知識です。適応、作成の手順、機能など理解を深めていれば、ここにあるもので手作りすることができるかもしれません。日本では医師や義肢装具師に頼り、既成の装具・デモ機で患者さんと共に試行しながら進める事ができました。ここには見本になるものがなく、適応なのか見極める事も難しいです。二分脊椎の子の下肢装具をどうすべきか…てんかん発作を多発する脳性麻痺の子の椅子はどう作るべきか…悩みながらの執筆でした。

Бийпил түнүңүз менен…(びーぴるとぅぬんぐずめねん) おやすみなさい!

159キルギス水谷 159キルギス水谷②

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