リハレポ182号 現地の方にかけられたあの一言 キルギス水谷PT
Саламатсыздарбы!(さらまっとすずだるぶー)こんにちは皆さん。キルギスから理学療法士の水谷がお届けいたします。
キルギス語の挨拶に含まれるСаламат(さらまっと)とは、健康や健全という意味があります。“こんにちは”の場面では「健全にお過ごしですか?」と尋ね、“さようなら”の場面では「健全でいてくださいね!」と言い合っているのです。キルギスの人々は、互いを思いやり、幸せや健康を願う言葉を掛け合うのが常です。お誕生日などのお祝い事の際には、家族・友人・同僚など、周囲のみんなから祝辞やトースト(乾杯)を受けるのですが、日常生活でもこういったトーストのような言葉を掛け合っています。
また、子どもを呼ぶ際に「кызым(くずむ)私の娘」「балам(ばらむ)私の息子」などと言うのですが、『大切な、貴重な存在』という意味を込めて「жаным(じゃぬむ)私の魂」「алтыным(あるとぅぬむ)私の金」という呼び方もよく耳にします。先日とある年配の女性に言われて少し驚いたのは、「күчүгүм(くちゅぐむ)私の子犬」と呼んでくれたことです。左腕の骨折後、変形拘縮してしまったお孫さんの付き添いで来院していたのですが、わたしたち日本人ボランティアの活動や現地の常とは異なる対応・治療について、感謝の想いをもって「子犬ちゃん」と呼んでくれたようです。恥ずかしいような、こそばゆい感じがしました。
特に医療・リハビリ・療育の現場に居ると、“日本から来た、ボランティア(無償で働いている)、キルギスの常識とは違う介入・治療をする”等の点から、感謝と感激の気持ちをいただくことが多くあります。地方の、村の、なかなか支援の手が届かないところにいる人々には、病気や障がいに関する正しい知識や、リハビリテーション(療育)という概念がない場合が多いため、私たちが出向いて話をするだけでも、様々な情報を伝え障がい像や子どもとの関わり方について説明するだけでも、とても喜ばれます。同期の野口さんは村の障がい児を抱える家族から“神”といわれるほどです。
そんななか、先日とある患者さんから手紙をもらい、涙がこぼれそうになりました。
12歳の女の子、おそらく出生時の引き抜き損傷(生まれるときに身体か腕を引っ張られる等のトラブルにより、腕神経叢を傷つけてしまうもの.肩から先の腕全体の運動や感覚に支障をきたす可能性がある.)により、左腕に関節可動域制限と筋力不足を生じていました。日常生活で特に困っていることはないとのことでしたが、左手だけで物が持てない、重いものを持ち上げられない、などの訴えが聞かれました。また、実は首や肩だけでなく全身的に可動域制限による痛みがあることがわかりました。左腕の筋力アップを目標に、また、硬い部分のストレッチングで自己管理ができるように1週間ほど指導しました。
約束の時間より早くリハビリ室(治療体操室)に来てくれたり、退院してからも通いたいと言ってくれたり、私が日本人だからか、とても好意的に接してくれました。「私のような症状の子は他にもいるの?よくなるの?」と訊いてくれたとき、今まで誰にも明かせずにいた不安や本音を打ち明けてくれたような感じがしました。
彼女とお別れする日に照れながら渡してくれた手紙には、『あなたのことが気に入りました!離れたくないです。お姉さんになってくれたらいいのに。』とありました。慕ってくれるのが嬉しくて、たいして何もできなかったことが申し訳なくて、改めてキルギスの子ども達のために頑張らなければ!!と力をもらいました。
これまでも、「気に入ったわ!お嫁さんにならない?」「いい仕事をしているね!ここに残りなさい」と冗談まじりで言われることは多くありましたが、純粋に慕ってくれ、それを手紙という形にして贈ってくれたのは初めてです。とても有り難いことです。
折り返し地点を過ぎ、キルギスのことを知れば知る程、悩みやジレンマも増してきた今日この頃…。子ども達のために働きたい、キルギスの子どもの笑顔をひとつでも多く花咲かせたい、そんな初心を今一度こころに、彼女の贈ってくれた言葉を胸に、最後まで全力で走り抜きたいです。
Саламатта калыңыздар!(さらまったーかるんぐずだーる)さようなら皆さん。